書いても静かな夜に思う、ブログで収入を目指す意味が揺らいだ日

夜の21:43。駅前のコンビニの明るさが、やけに白くて、まぶしい。外は冷えてるのに、店内の暖房とホットスナックの匂いがやさしくて、私はそれだけで少し救われた気がした。
レジ待ちの列で、スマホを開く。ほんの癖。指が勝手に、いつもの管理画面へ行く。
「今月のブログ収益:◯◯円」
数字は、私の気分に合わせてくれない。むしろ、私が気分を合わせにいく。閉じて、開いて、また閉じて。財布の中身を確かめるみたいに、何度も確認してしまう。たぶん私は“稼ぐために書く”を始めた日から、文章の横にいつも電卓を置く癖がついた。
なのに最近、タイムラインを開くたびに流れてくる言葉がある。
「ブログで稼ぐの、もうオワコンじゃない?」
オワコン。終わったコンテンツ。四文字で、夜更かしごと軽く否定される感じがする。私はコンビニの前で、コーヒーの紙カップを持ったまま、うまく息ができなくなった。
「オワコン?」と聞かれた瞬間に、胸がざわつく理由

言葉そのものが怖いというより、私の中の“弱いところ”をピンポイントで叩かれるからだと思う。
ブログは、遅い。今日書いたものが明日すぐ誰かに届くわけじゃない。反応がない時間が長い。なのに、時間だけは確実に溶ける。睡眠も、週末も、たまに自信も。
それでも続けてきたのは、「積み上げれば、いつか報われる」っていう、あの希望があったから。
でも最近、その“いつか”が、遠ざかって見える瞬間が増えた。
検索の上に、AIが要約を出すようになって、リンクを押さずに答えだけで満足して帰る人が増えているらしい。GoogleはAI Overviews(AIによる概要)を2024年に米国で広く展開すると発表していた。
さらに、AI要約が表示されたとき、外部サイトへのクリックが減る傾向も示されている。Pew Research Centerの分析では、AI要約に遭遇した訪問でのクリック率は8%、遭遇しない場合は15%だった。
文章で読むと淡々としているけれど、書き手の体感に翻訳するとこうなる。
「せっかく書いたのに、見られないかもしれない」
この“かもしれない”が、いちばん苦しい。
順位が落ちることは前からあった。アップデートのたびに心臓が一回ひっくり返る夜も、何回もあった。Googleは2024年3月のコアアップデートで、低品質・不正確・量産っぽいコンテンツを減らす取り組みを強める、と説明している。
“AIっぽい文章”を嫌がる空気があるのに、世の中はAIで要約する。なんだそれ、って思う。矛盾が、胸の奥に小さく刺さる。
そして私は、その刺さりを誰にも言わないまま、文章だけを書き続けてしまう。
「大丈夫」って顔で。
ほんとは全然大丈夫じゃないのに。
「稼ぐ」って言葉を置いた瞬間、私は自分の文章が少し恥ずかしくなる

本当はさ、稼ぎたい。
きれいごとじゃない。家賃も上がるし、光熱費もじわじわ痛いし、将来がぼんやり不安で、貯金の桁を見ると胃が縮む。
なのに「稼ぐ」って言葉を文章に乗せた途端、急に自分が浅く見える気がする。読者の顔が一斉に曇る妄想までしてしまう。
「この人、結局お金目的なんだ」
……目的だよ。生活だよ。生きるってそういうことだよ。と、心の中では反論しているのに、反論するほど、ますます後ろめたい。
たぶん私は、“稼ぐこと”そのものより、“稼ぐために自分の感情を利用している感じ”が怖いんだと思う。
今日も記事を書きながら、途中で手が止まった。
読者が離脱しないように、導線を置くべきか。
やさしく背中を押すふりをして、不安を差し込んでいないか。
そのたびに、私の中のどこかが「それ、あなたの文章だっけ?」と囁く。
でも同時に、別の声もある。
「そんなに純粋でいられるほど、余裕ある?」
これが、いちばん刺さる。
だって、ブログで稼ぐことが“オワコンかどうか”なんて、私の暮らしの中では、ほとんど哲学じゃなくて、生活の話だから。
冷蔵庫の中身みたいに、具体的で、ちょっと切実で、見せびらかしたくない。
それに、“終わった”と言われる時代でも、仕組み自体が消えているわけじゃない。国内のアフィリエイト市場は2024年度に4,382億円規模の見込み、という調査もある。
つまり、市場は生きている。誰かは今も成果を出している。
なのに、私の手元だけ、砂時計みたいに減っていく感じがする。
ここで、ようやく気づく。
「オワコン?」って問いは、業界の話というより、私の話なんだって。
たぶん私は、ブログが終わるのが怖いんじゃなくて、ブログに期待してきた自分が終わるのが怖い。
頑張れば報われる、文章は積み上がる、検索から人が来る、信頼が収益になる——そういうストーリーを、私は信じたかった。
それが崩れたら、私はどこに立てばいい?
最近は「検索トラフィックの時代が終わるかも」みたいな話も、ニュースで普通に出てくる。
でも、変化のスピードに置いていかれるとき、私がいちばん痛いのは、“取り残された”ことそのものじゃなくて、取り残された自分を自分で笑えなくなることだ。
昔の私は、もっと軽かった。
「まあ、ダメなら別のやり方探せばいいじゃん」って言えた。
今の私は、ダメな気配を嗅いだだけで、先に自分を責める。
「ほら、やっぱり続かなかった」
「才能ない」
「時間の無駄だった」
……こういう言葉が、いちばん“オワコン”なんだと思う。私の中の。
それでも書くのは、たぶん「収益」だけじゃなくて「居場所」も欲しいから。
SNSみたいに即レスの空気がなくて、誰かの正しさと戦わなくてよくて、弱いまま置いておける場所。
誰にも見せていない思考を、言葉として置ける棚。
もちろん、アクセスが欲しい。反応も欲しい。収益はもっと欲しい。
でも、心の底では、もう少し静かなものを求めている気もする。
「私の中に確かにある、この揺れを、ちゃんと見てくれる誰か」
たった一人でもいい。検索1位じゃなくて、“あなたの夜に寄り添える一位”みたいなやつ。(そんなランキング、どこにもないんだけど。)
じゃあ、ブログで稼ぐのは本当にオワコンなのか。
私は今も答えを出せない。終わったのか、始まったのか、判断できるほど私は強くないし、未来の数字も読めない。
ただ、ひとつだけ分かったことがある。
「オワコン?」って言葉が刺さる日は、たぶん私が“自分の文章を信じ切れていない日”だ。
その夜、部屋に帰って、上着も脱がないまま椅子に座った。机の上には、書きかけの記事のメモ。コスメの感想を“自分の言葉”で書こうとしていたのに、途中から急に、どこかの比較記事みたいな言い回しになっている。自分で読んで、自分で「あ、これ私じゃない」って思って、そっとブラウザを閉じた。
うまくいかなかったこと、ってこういうやつだ。
派手に失敗したわけじゃない。炎上もしてない。
ただ、ほんの少し、私の文章が私から離れた。
理由は分かってる。焦ってるから。
今月のPVが、先月より静かに落ちている。
検索の入口が細くなっている気がする。
それなのに、SNSでは「ブログ月◯◯万達成!」みたいなスクショが流れてきて、私は指が止まる。おめでとうって思いたいのに、先に、喉の奥がきゅっとなる。
その瞬間に出てくる感情が、自分でもいちばん扱いづらい。
羨ましい。悔しい。置いていかれたくない。
でも、それを表で言ったら、みっともない。
だから私は、何も言わない。その代わりに、文章の中で“売れる形”を真似してしまう。
……そして、さらに書けなくなる。
私の中で、「稼ぐ」と「好きに書く」が、いつも手をつないでくれない。
稼ぎたい夜ほど、好きに書けない。
好きに書けた夜ほど、稼げる気がしない。
このズレが、私の疲れの正体かもしれない。
しかも最近は、“どこへ書くか”も揺れている。
ブログなのか、Xなのか、YouTubeなのか、メルマガなのか。
「文章の場所」が増えた分、心が分裂する。
どこで息をしたらいいか、迷う。
それでも、ブログの画面だけは、最後まで閉じ切れない。
たぶん私は、ブログに“遅い救い”を期待してしまっている。
明日じゃなくてもいい、来週でもなくていい、でもいつか——という、あの曖昧な希望。
だけど希望って、曖昧なぶん、壊れやすい。
だから私は、今日も自分で自分に言い聞かせるみたいに、根拠を探す。
「市場はまだある」
「AI要約が増えても、一次情報は必要になる」
「結局、人は人の体温に戻ってくる」
……言葉にすればするほど、私はそれを信じたいだけなんだと分かる。
信じたいから、証拠を集めて、安心したい。
でも安心って、集めた瞬間から古くなる。だからまた不安になる。
結局、「オワコンかどうか」を決めたいんじゃない。
決めてしまったら楽だから、決めたがっているだけ。
終わりなら終わりで、諦められる。
終わりじゃないなら、頑張れる。
そのどちらにも転べない“中途半端な揺れ”が、いちばん長く私を消耗させる。
だから最近は、少しだけ、問いの形を変えてみている。
「ブログはオワコン?」じゃなくて、
「私は、ブログを続けたい?」って。
続けたい日もある。
続けたくない日もある。
どっちも本当で、どっちも嘘じゃない。
今日の私は、たぶん、続けたい寄り。
理由は立派じゃない。
ただ、誰にも言えなかったこのモヤっとを、置く場所が欲しかっただけ。
画面の白い余白に、文章が落ちていく音がする。
その音が、少しだけ、私を落ち着かせる。
そして私はまた、完璧じゃないまま、書く。
コンビニの前で、レシートを折りたたむ。
ホットコーヒーの熱が指先に移って、少しだけ現実が戻る。
明日、また書けるかどうかは分からない。
でも今日は、とりあえず“終わったかもしれない”という不安ごと、文字にして置いておく。
それが私の、いまの精一杯の稼ぎ方なのかもしれない。





